第13回「読書サロン」のテーマは「黒」でした。
人間社会や人の心のダークサイド、「死」を連想させる「黒」の本は、人が人として生きる意味を問うているようでありました。
フランスの画家ルドンは、『黒は最も本質的な色』であり『精神の働き手』であるから大切に扱わなければならない、と言っています。
シンプルで美しくて、ちょっと怖い「黒」の本たちを囲んで語り合った夜でした。ありがとうございました。
●ブラックジャック漫画文庫 手塚治虫
マンガの神様:手塚治虫のどん底時代だった1973年に連載が始まった「ブラックジャック」は、「医師免許を持たない天才外科医」というアウトサイダーが主人公。命は儚く、人の欲望は果てしなくつきることがない。延命することは「幸せ」につながるのか。苦悩する主人公の傍らには、いつも明るく愛らしいピノコがいる。
●クラバート オトフリート・プロイスラー
ドイツの古い伝説を元に描かれた物語は、プロイスラー文学の頂点とも言われている。昼間は水車小屋の職人として働き、夜にはカラスの姿になって親方から魔法を学ぶ少年クラバート。意思と愛の力で、ついに親方と対決の時を迎える…。死の影がつきまとう物語は、宮崎駿が「千と千尋の神隠し」の下地にしたといわれている。
子どもと森と動物たち三作品
①もりのおくのおちゃかいへ みやこしあきこ
おばあちゃんの家にケーキを届けに行く女の子が迷い込んだのは、動物たちがお茶会を開いている不思議な館でした。モノクロの絵の中に、ところどころ使われる色彩が美しい絵本です。
②もりのなか マリー・ホール・エッツ
ラッパを持って森に入った男の子は、ゾウやライオンやクマと出会ってかくれんぼ遊びをしました。男の子が鬼をしている間に動物たちはいなくなってしまうのですが…。白黒で描かれる森の中が、ちょっと怖いようなワクワクするような不思議な世界へ誘ってくれる絵本です。
③また もりへ マリー・ホール・エッツ
「もりのなか」の続編。男の子が森へ入っていくと、動物たちが集まっていて、自分の得意なことで腕比べをしているところでした。男の子も仲間に加わって、動物たちにはできないことをやるのですが、それはどんなことでしょう? お話の最後には、やっぱりお父さんが迎えに来てくれて、男の子が森の中で体験した話を聞いてくれるのでした。
●人は人を浴びて人になる 夏苅郁子
過酷な人生に絶望し自殺未遂をくり返した著者(精神科医)が、回復の道程をふりかえった自伝的エッセイ。真っ暗な闇の中にいるとしか思えないような時でも、必ず希望の光を灯す出会いは訪れる。その出会いを自分のものとするためには、勇気と努力も必要なのだけれど。著者は、最後の最後に人を信じることができる力の礎は、叔母との間に築いた幼少期の愛着関係にあると述べています。
●学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史 ハワード・ジン/レベッカ・ステフォフ
『純粋な事実というものは存在しない。学校の教師や作家が世界にさし出すあらゆる事実の陰には、判断がある。判断とは、この事実は重要だが、こちらの事実は重要ではないから省略してもかまわない、というものだ』
ボストン大学名誉教授による「民衆のアメリカ史」を若者向けに編集した本書は、これまで大半の教科書で無視されてきた有色人種や女性、労働者や貧困層の立場から、体制に抵抗する人びとの姿が描かれている。
●殺人者たちの午後 トニー・パーカー
死刑制度のないイギリスでは、殺人で有罪になると「終身刑」が宣告され、それ以外の刑はない。本書は、その「終身刑後」を生きる人びとにインタビューした記録。『彼らはそれぞれに人を殺すに至った事情をもつが、どの殺人も、まるで見えざる手が動いたかのように発作的でパラノイア的で、少しも劇的ではない。気がつくと死体があった、というふうで、誰も自らの動機を明確に説明できない』(高村薫の解説より)
●ちびくろ・さんぼ ヘレン・バンナーマン
イギリスやアメリカで人気になった絵本は、1953年に岩波書店から出版され、1970年代には教科書にも掲載されていた。しかし1988年、黒人差別であるとの批判を受けて岩波書店が絶版の措置をとる。2005年、別の出版社が復刊。男の子とトラの知恵比べの話。
●チビクロさんぽ ヘレン・バナマン/森まりも
黒人差別であるとの批判で絶版となった「ちびくろ・さんぼ」を、主人公を黒い子犬に変えることで復活を試みた絵本。問題となっていた著作権についても、日本で初めて正式にクリアしたという。この問題にどう向き合えばよいのか、というテーマを論じた小冊子が付録となっている。
動物を乗せるバス二作品
①やまのバス 内田麟太郎/村田エミコ
乗客が減り廃線が決まってしまったバス。「誰でもいいから乗ってくれないかなあ」という運転手さんのつぶやきを聞いた動物たちが、つぎつぎ乗客に。版画絵の美しく楽しい絵本です。
②つぎ、とまります 村田エミコ
お客さんを乗せたバスは、森の中、海の中、地面の中を走ります。つぎはどこにとまるのかな?
●うしろめたさの人類学 松村圭一郎
エチオピアでのフィールドワークを重ねてきた著者(文化人類学者)は、私たちの「常識」というものがどのように作られているのかを考察する。「うしろめたさ」をキーワードに、自分が問題視してこなかったことに目を向けさせてくれる一冊。
●悪について エーリッヒ・フロム
人間は羊か狼か。人間の歴史は血を持って書かれ、絶え間ない暴力の歴史であり、意思を曲げるために力が用いられてきた。狼は殺すことを欲し、羊は従うことを欲し、羊は追従しようとして殺す。しかし私たちは、ヒューマンなるもの(理性・愛・自由)を選択することができ、『他人の不幸に、他人の親しい眼差しに、小鳥の歌に、緑の草木に感動する力』を自覚しうることが善への救済であると。
●我輩は猫である 夏目漱石
『我輩は猫である。名前はまだ無い』という書き出しが有名な、漱石の最初の小説。漱石の家に迷い込んだ黒猫がモデルといわれているが、小説の中の「我輩」は『淡灰色の斑入りの毛衣』。小説の最後で、「我輩」はビールに酔って水甕に落ちて溺れ死んでしまう。『我輩は死ぬ。死んで太平を得る。太平は死ななければ得られぬ。南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏。ありがたいありがたい』
●ねこ先生 長尾剛
夏目漱石「我輩は猫である」の舞台裏を、史実を交えながら大胆に描く。「我輩はウツである~“作家・夏目漱石”誕生異聞」を改題して文庫化したもので、NHK-BSでドラマ化もされた。
●黒ネコマニアックス 黒猫愛好会
「すべての黒猫ファンに捧げる黒猫LOVEな黒猫まみれ」な一冊。知ってびっくりな黒猫と人間の歴史や、黒猫を写真に撮る時のコツなど。いつまでも何度でもながめていたい。
●ココ・シャネルの言葉 山口路子
貧しい子ども時代を経て、「シャネル帝国」と呼ばれる一大ブランドを築いたココ・シャネルの言葉を集めた本。喪服でしかなかった黒い服を街中にあふれさせ、パリ・モードの主流にまでしたシャネル。「私の頭のなかに秩序を押し込もうとする人びとが嫌い」「退屈よりも大失敗を選びなさい」「嫌いなことに忠実に生きる」背筋がピンと伸びる言葉に勇気凛々となる一冊。
●空飛び猫シリーズ③④ アーシュラ・K・ル・グィン
「ゲド戦記」の作者ル・グィンが描く翼を持つ子猫たちの冒険譚を、村上春樹が翻訳。成長した猫たちに、妹ができました。小さな黒猫はジェーンと名づけらました。翼を持つ黒猫になって、空を駆けてみたい。
●黒い鳥の本 石井ゆかり
青い鳥、薔薇色の鳥、金色の鳥、に続くシリーズ4作目は、怒りや悲しみや恨みや嫉妬という心の闇を見つめる「黒い鳥」。『私たちの心の中には、前向きで正しくあろうという思いと同じくらい、ネガティブな、または攻撃的な感情も潜んでいるものではないでしょうか』『それを打ち消してしまうことが成長なのかというと、そうでもないように思われます』 持って行き場のない感情を否定せず認めてあげて、というメッセージ。
次回「本好きのための読書サロン」は、
12月8日(土)19時~21時です。
テーマは、「わたしのベスト本2018」です。
この一年をふり返る時間にしたいと思います。
ご参加お待ちしております。
写真は、NHK-BS「世界ネコ歩き」を観てない黒猫なっちゃん(笑)
さっちゃんは「世界ネコ歩き」が大好きなんですが。