介護保険法には「介護保険指定施設の従事者は、正当な理由がなくその業務上知りえた入所者またはその家族の秘密を漏らしてはならない」「施設は、そのために必要な措置を講じなければならない」という守秘義務に関する規定があります。
介護施設への出前講座でも、「個人情報と守秘義務」をテーマに依頼されることがあります。
個人情報とは?
個人情報とプライバシーの違いは?
取り扱いで注意する点は?
などなど基本的な話に加えて、「介護施設あるある」の事例をもとに「あなたならどうする?」と問いかけて考えてもらっています。
こんな「あるある」事例で盛り上がったところがありましたので紹介します。
『利用者Aさんから、利用者Bさんのことを尋ねられたらどうするか』
訪問介護でも通所介護(デイサービス)でも入所施設でも、利用者と1対1でかかわっているときに、「他の利用者のことを聞かれて困る」という話をよく聞いています。
実体験をもとにして出てくる答えは、次の2パターンです。
①真っ向勝負派
「個人情報なのでお答えできないんです」
「言ったらいけないことになっていまして」
②ごまかし派
「そんな人いたかなあ」
「わたしはよく知らないんです」
そして、別の話題に変える
①は、あまりストレートに言い過ぎると怒らせてしまいかねません。
もし不機嫌になったらどうするか、と聞いてみました。
「ひたすら謝りつつ、機嫌がなおるまでがんばる」(笑)
②は、職員自身が「うそをついている」「また聞かれたらどいしよう」と感じています。
①も②も上手くいけばいいのですが、実際には後味悪い感触を残してしまいます。
ここで考えてみたいのは、AさんがBさんのことを聞いてきた背景です。
Bさんのことを気にかけている、心配しているという場合もあるでしょう。
ただ興味本位、うわさ話、の場合もあるでしょう。
いずれにしても、あなたに聞いてきた、というところに注目しましょう。
あなたと利用者Aさんとの関係において起きていることなのです。
ここまでお伝えすると、皆さんのなかに色々な思いが浮かんでくるようです。
「わたしなら口が軽そうって思われているのかな(笑)」
「わたしと話がしたかったのか」
「ごまかすことに必死になっていました」
「怒るほうが悪い、守秘義務なんだからしかたないと思っていました」
「なんか、すごくすっきりしました」
あなたと話がしたいのです。
あるいは、関係性を確かめようとしているのかもしれません。
なので、すぐに答える必要はありません。
「Bさんをご存知なんですね」
「Bさんがご心配なんですね」
「なにか気になることがありましたか?」
あなたとAさんの関係性のなかで、Aさんに返してみましょう。
個人情報や守秘義務は大事です。
守らなければならない責任と義務が課せられています。
だからといって、「言ってはいけない」と杓子定規に構えることもありません。
介護は、人と人との関係性において成り立っています。