今年も、悩ましい季節がやって来ました。
9月下旬ころから「介護施設における感染症対策」というテーマの出前講座が続いているのですが、「病院における院内感染防止対策とは違う」っていうことを理解してもらうのに苦悩の日々です。
「感染」「感染症」を理解したうえで、介護施設で集団感染がおきうる感染症と、職員ができる予防策や、まん延を防止するために必要なことをお伝えしています。
ここでぶつかるのが、「知識」の部分と、実際に行うこと(行えること)とのつながり方です。
「不必要な不安、あるいは過剰な反応を減らす」ことと、「ゼロにはできないが、やれることはやらねば」ということのバランスをどうとるか、と言えるかもしれません。
あるいは、無駄なエネルギーではなく、「適切なところに注力する」ということになるかもしれません。
介護現場で集団感染がおきうるものとしては、インフルエンザウィルスやノロウィルスがあります。
一般の人にとっても、身近な感染症たちでしょう。
病院からの流れで、介護施設利用者のMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)やESBL(基質特異性拡張型ベータラクタマーゼ)産生菌などへの対応も求められているようです。
健康な人には悪さをしないけれど、非常に抵抗力の弱っている人(集中治療室でたくさん管をつけているような)にとっては生命にかかわるかもしれないような感染症です。
他には、ウィルス性肝炎や疥癬(ヒゼンダニ)や白癬菌(みずむし)などへの質問が多くあります。
ふつうに暮らしている個人が感染症にかからないようにすることは、どうやっても不可能です。
しかし、「今年こそ我がデイサービスからインフルエンザを一人も出さないように」という“指令”を聞いたことがあります。
疑わしい症状のある人は利用中止になるか、帰っていただくことになります。
あるいは、シーズン中は自宅で体温を測ってもらって37度以上なら利用中止、という場合もあります。
インフルエンザのシーズン中は、「利用者の送迎に携わる職員は必ずマスクをつける」という方針のところもありました。
白いマスクで顔を覆った人が車で連れに来るわけですら、それは怖がられても仕方のないことでしょう。
マスクをつけて欲しい利用者がマスクをつけてくれないので、マスクに慣れてもらうため、利用者にも普段からマスクをつけてもらうようにしたらどうか・・・こんな話も聞きました。
職員や他の利用者を守るために、どこまでやるの?
ふつうに暮らしている個人が感染症にかからないようにするのは、現実的に不可能です。
介護の現場でできることは、利用者の不調を早期発見・早期対応し、重症化を防ぐことです。
また、「手洗いに始まり手洗いに終わる」と言われているとおり、職員の手を介して拡がっていきますので、集団感染を防ぐためには、職員が媒介者にならないことです。
けっして、利用者をどうこうしろという話ではありません。
(病原菌を)持ち込まない・拡げない・持ち出さない。
こまめに石けんと流水で手を洗うこと。
このあたりまえの、とてもシンプルな対処法を徹底しましょう。
手指消毒液を正しく使っているところも少ないです。
いいかげんな方法では、コストの無駄使いにしかなりません。
消毒の匂いで満足感を味わっているにすぎません。
手指消毒液を使うなら、正しく効果的に。
できること、やるべきこと、これを習慣にすることが大事なのです。
利用者の手に、家庭用の塩素系漂白剤を薄めた液を噴霧しているところがありました。
MRSA陽性の利用者が他の利用者に触らないようにするにはどうしたらよいか?という質問を受けたこともあります。
咳をしている認知症の人が部屋から出てきて困るが、どうしたらいいか?という質問もありました。
既往歴にC型肝炎とある人の食器や衣類を、他の利用者とは別に取り扱って消毒しているところもありました。
このような職場にいる職員さんたちは、知識という正論では納得してくれません。
利用者=菌をばらまく人という思考回路におちいってしまっていると、知識の入れ替えはとても困難です。
「正しい知識を」と言われますが、いちど擦り込まれた情報を書き換えるのは大変です。
おそらく、知識だけの問題ではないからでしょう。
そこには、「目に見えないものが“うつる”」という、気持ちの問題があるのです。
限られた研修時間なので、気持ちのところまで触れられないことがほとんどです。
開けてはいけない箱の蓋を開けてしまうような、私自身の不安もあります。
何度か訪れて関係ができていると思えた事業所で、一度だけ言ったことがあります。
「私を看護職として1週間雇ってくれませんか? 皆さんの不安を引き受けます!」
なかなか納得を得られない状況で、苦し紛れに言ってしまったのではありますが(笑)
まあ、私がそこまで言っているということで、なんとなく皆さんの気持ちはおさまったようでした(笑)
しばらくこんな日々が続きますが、凹まず諦めず、できるだけ現場の気持ちを汲みながら頑張ります。