そばにいること

ある介護施設から、「スタッフの様子を見て、改善点があれば教えてほしい」とのご相談がありました。訪問しての印象は、スタッフの皆さんの言葉づかいがすばらしいということでした。

妙に低姿勢で「ご利用者様」扱いしたり、反対に母親が子どもに言うような口ぶりで「言い聞かせ」たりすることなく、年長者として尊重しつつ、親しみをこめた態度でかかわっておられました。

この、あたりまえのことがあたりまえにできているって、なかなか大したことなのです。

管理者やリーダーの姿勢が、スタッフ一人ひとりに浸透しているということです。

そのことを、まずお伝えしました。

 

さらに良くするために私からアドバイスしたことは、次の点です。

 

●座っている利用者のそばにいるときは、自分もすわりましょう

 

こまめに利用者に声をかけたり、一緒に手仕事をしたりしているのですが、中腰か、テーブルに肘をついて寄りかかって(腰をつきだして)いました。

 

一応、目線を同じ高さにしています。

けれど、利用者からするとどうでしょう。

このような姿勢は、「次の動きに備えている」という印象を与えます。

事実、スタッフの頭の中には「次にやること」が浮かんでいます。

時間・空間・人手の限られた枠組みのなかで、やらなければならないことが目白押しなのですから。

フロアーじゅうをクルクルと動き回り、目配り気配りを懸命にやっているのが伝わります。

その合間にわざわざ来てくれたということになりますから、利用者側も、そのような対応をするでしょう。

そこのところに気づいてもらいたかったのです。

 

たとえわずかな時間であったとしても、

その時間の質を上げるために腰掛けましょう。

・そんなことくらいで何が変わるのか?

・10秒くらいしかいられないのに、意味があるのか?

たとえ10秒でも、肘ついて寄りかかっているのとは違うのです。

相手に伝わるものが変わります。

「こまめな声かけ」を、作業にするか「ケア」にするかの境目でもあります。

 

スタッフの一人が、こんな話をしてくれました。

「そういえば利用者さんから言われたことがあります。

 あそこの丸イスを持ってきてお座りや、って」

 

中腰でしんどそうだと思ったのかもしれないし、

なんだか落ち着かないなあと思ったのかもしれません。

 

どうやって時間内にすませるか、が、最優先になりがちです。

 

どうやって利用者のそばにいる時間を作るか。

そのことがベースにあって初めて、入浴を「ケア」にすることができるのではないでしょうか。

入浴介助の時間もまた、大切な「そばにいる時間」です。

なんのために?

「あなたは大切な人です」という気持ちを表現し、受け取ってもらうために。