とある介護セミナーに参加したときのことです。
全国的に著名な講師の方で、会場は満員御礼。
セミナーの内容からして、どこかで必ず川崎の老人ホームでの事件(元職員が殺人で逮捕された)について触れるだろうな、どんな見解を述べるのかな、と、興味関心をもって聞いていました。
経営者・管理者の人たちは、まさか現場で知らんぷりをするわけにはいかないだろうから、実際のところ職員にどのような対応をしてきたのだろう。
一時期、あの老人ホーム入居者の家族が隠し撮りしたという映像も盛んに流されていました。
「あそこまでではないにしても・・・口調がきつい職員や、乱暴な扱いをする職員がいて困る」
という話は、実際よく聞きます。
経営者・管理者を対象にしたセミナーにおいて、あの老人ホームのことはどう語られるのか。
・・・あれは本人が自白した殺人事件ですから・・・。
・・・(経営者にとっては) 道を歩いていて交通事故にあったようなものですから・・・。
このような内容でした。(私はこのように聞きました)
殺人事件そのものと、「施設職員による虐待」は別だ、という意味なら賛成です。
でもちょっと・・・あっさりスルーされたような感じがしてしまいました。
立場が異なるということなのかもしれませんが。
セミナーのあと、この2冊を再読しました。
『あれは自分ではなかったか』(Bricolage)は、
2005年のグループホーム職員による虐待致死事件を受けて出版された現場からの問いです。
もしかすると、10年前より厳しい現場が増えているのかもしれません。ほとんど無資格・無経験の職員ばかりで“業務をまわしている”という現実。
とりあえず“穴を埋めながらまわしている”現場。
“より良い介護”を創造し実践しようとする人財は疲弊するばかりで、継承ができないという現実。
『認知症介護びっくり日記』(講談社)は、『カリスマ介護アドバイザー高口さんのホンネ全開!』な本。
冒頭の『うちに帰ろうよ、ジイちゃん』は、『認知症のお手本のような』おじいさんをめぐる物語。
職員を悩ます言動オンパレードのおじいさんを、
『目にキラキラ星の入った』熱い職員たちは「もうちょっとがんばってみようよ」と言いますが、
『もう面倒みられません!』『無理、無理、うちは無理。』という拒絶派も当然います。
キラキラ職員vs拒絶職員 その攻防の顛末は・・・?
笑いと涙の“高口節”全開の一冊です。
その「あとがき」より。
『認知症介護は簡単ではない。
しかし、難しいかと問われれば、そうではない、と答えるようにしています。
認知症介護は、「人間とは何か?」という問いを個人・家族・地域・社会
そして時代が受けて立つことからはじまります。』
「人間とは何か?」という問いは、
「介護が必要な人」にかかわることを仕事にする私たち自身に向けられたものであります。
人が、生まれて生きて死んでゆく。
そこに直接かかわる仕事なのだという自覚をもたせなければならないのです。
「事業経営」にハウツーはあるのかもしれないけれど、「介護」にハウツーはない。