認知症の介護の基本である「パーソン・センタード・ケア」は、認知症の人をひとりの人として尊重し、その人の視点や立場に立って理解しケアするというものです。その人らしさを知るための5つのアプローチや心理的なニーズについての理論があるのですが、そのうちの「12の希望のしるし」について紹介します。介護する人の抱く「自分のやっていることがうまくいっているのかどうか」という不安に応えてくれる「希望のしるし」です。
①自己主張できる
②喜びと苦しみの両方の感情を表現できる
③まわりの人とふれあいを始める
④愛情深い
⑤まわりの人の必要なものや気持ちに敏感
⑥自尊心がある
⑦ほかの混乱した人を受け入れる
⑧ユーモアを楽しむ
⑨自己表現・創造性がある
⑩喜びを示す
⑪リラックスできる
⑫手助けをする
『認知症の介護のために知っておきたい大切なこと~パーソンセンタードケア入門~』筒井書房より
本の中ではそれぞれの具体例が示されていますが、
イギリスの施設や在宅介護の場面のことなので、ちょっとピンときにくい部分もあるかもしれません。
わたしたちの身近な介護の現場で考えられることに“翻訳”してみます。
たとえば「①自己主張できる」とは、
介護者がおやつを勧めたときに、いらないのなら「いらない」と主張できるということです。
お腹がいっぱいなのかもしれないし、好みじゃないのかもしれないし、
他の人と一緒に食べたいのかもしれないし・・・その人なりの表現方法で「いらない」と主張できる。
また「⑥自尊心がある」とは、
介護者が見ていないところで粗相をしてしまったとき、
それを知られないために その人なりの対処ができるということです。
たとえば手近にあった上着で床を拭くとか、汚れた下着をタンスにしまうとか。
このように「希望のしるし」とは、認知機能が改善するとか困難が解決するとかいうことではありません。
その人が、『自分の苦しみや絶望のなかに閉じこもっていないこと』を示すものです。
『事態が改善するとう希望ではなく、混乱を超えてその人が安全でよい状態にあるという希望』です。
できないことわからないことが増えていっても、そのまま受け入れられ大切にされるという『希望』。
介護が必要な状態になったのだから、介護者の手助けを「イエス」と受け入れて委ねてもらわないと!
そんな態度で認知症の人に向けられる“まなざし”からは、希望は生まれない。
現場で問題視される「拒否」を、その人なりの「自己主張」と受け取ることができるかどうか。
その人なりの対処の仕方を、「自尊心ゆえ」と受け取ることができるかどうか。
ものすごく大きな分かれ道だといえます。
その先に、その人のための工夫(個別ケア)があって、
「美味しいねえ」「すっきりしたねえ」「さっぱりしたねえ」 と笑い合える瞬間があって、
その人の『希望』が 介護する人の『希望』になるんじゃないかな。